1.身体は注力/脱力・回復の繰り返し運動

    クライミングで身体はどのように動いているか?

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 スポーツをする私たちの身体はどのように動いているだろうか? たとえば水泳の平泳ぎではひと掻きした後、身体を伸ばし、ほとんど全身ストレッチ状態に入る。ボートを漕ぐ場合も、思い切ってオール引き付けて漕いだ後、身体を前に投げ出すように倒れこみ、最初の姿勢に戻る。緊張と弛緩、注力と脱力、回復の繰り返し、これが運動のサイクル、あるいはリズムだ。

 クライミングの場合は、たとえばジムに設置してあるキャンパシングボードでの動きだ。両手でボードにぶらさがり、力をためて一方の手で上のバーを取り、取れたら再び力をためて沈み込み、他方の手で次のバーを取る。これを繰り返し、上のバーへと順に登っていく。

 しかし、この緊張と弛緩のサイクルは、じつは一手、一手、といったひと動きごとのサイクル、それだけではない。クライミングで言うオブザベーションは、ホールドの使い方や手順を考えるだけではない。登る前に、ルートのどこでパワーをセーブし、どこでレストを取って回復し、どこで勝負にでるか、どうメリハリをつけていくか、考えるのである。

もうお分かりだと思う。個々の小さなサイクルの動きの「プラス」「マイナス」のリズムに加えて、ルートの全行程で大きな「プラス」「マイナス」の波をどう戦略化して、実現するか?である。

 ルートはムーブのテクニックや、手順だけが、すべてではない。ルートファインディングで一番先にチェックしなくてはならないのは、どの部分で休めるかである。戦略として、動と静のメリハリを戦略的に捉えて、ルート全体の動きを自分の呼吸の中に捉えなおす。この「プラス」「マイナス」、爆発・回復のサイクルこそ、クライミングのもうひとつの醍醐味なのである。

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 なお、この注力・脱力のサイクルを、ルートクライミングと、ボルダリング、アルパインクライミングのそれぞれのケースで示したのが下図である。このうちルートとボルダリングの2つのクラ

イミングの違いは、まず注力・緊張と弛緩・脱力の振幅の深さの違いである。ルートの山と谷は深く、ボルダーの山と谷はやや浅い。さらにボルダーはサイクル自体がグラフの上に来ている。つまり競技全般で、注力・緊張状態にあるといえる。

 なぜこうなるか?それは2つの運動の横軸の長さと関係している。ボルダーの横軸は短い、つまり短期決戦だから、パワーを長く維持する必要がなく、回復は浅くてもいい。長丁場のルートは、弛緩・回復の谷は当然深く、広くなる。ルートの場合は、この谷の形成を自分の身体で練習しなくてはならない。

 アルパインの場合は、山の部分が突出しない。その結果、谷もあまり深くない。全般に持続的に身体が動いていることが分かる。

 

 このようにクライミングの身体の動きは、その強度で山と谷を形成する。そのため、クライミングでは、力を入れるところでは入れ、力を抜ける場所では抜くという身体のコントロールが重要になる。したがってルートファインディングにおいても、決して切り抜ける技(ムーブ)や手順(シークエンス)の確認だけではない。どこで弛緩・脱力し、どこで爆発体勢に入るか、というパワーの消費と回復を読むことも重要なのだ。