6-06 ビレイのマスターは最長5分だが、最短3年かかる

 

 ビレイというのは、言うまでもなくクライマーをロープで確保する技術だ。これは、やり方さえ教えてもらえば、誰でも2-3回練習で、最短5分でマスターできる。理屈としても、技術としても、なにも難しいものはない。クライマーが落ちたら、ロープが流れないよう止めればいい。それだけだ。

 実際、ビレイというのは、そうなのだ。そうして、このビレイの作業を、クライミングで2-3日もやれば、誰もがビレイを出来たつもりになる。まったくかんたん、すぐに出来てしまう。

 

 しかし、実際のところはそうではない。ほんとうにビレイワークが出来るようになるには3年程度かかる。この節の見出しが、「ビレイのマスターは最長5分、最短で3年かかる」というのは、校正ミスではないのだ。

 ビレイに要求されるものをあげてみよう。

 Ⅰ)クライマーをむやみに落とさない

   イ)敏捷なロープの繰り出しと繰り込み。そのためには、繰り出す手の動きのほか、足で稼いでロープの出し入れをカバーする。

   ロ)グランドフォールの可能性の在る1~3ピン目で、大きく落とさない

   ハ) 同じく登り出しの高さで、ロープの上にクライマーを落とさない(ロープの上に人が落ちると、足がロープに絡み,人は頭を下にして真っ逆さまになる。頭を打ち付けることもありうる)

   ニ)リードビレイで、クライマーがロープのたぐりに詰まるような繰り出しはしない。また、動きが取れないようにタイトなビレイも問題である。といって、だらりんビレイは論外だ。これらを含め、クライマーが心配になって、登りに専念できないようなビレイはビレイではない。クライマーが信頼できないビレイヤーは失格である。

  へ)ロープの繰り出しは、繰り出したロープの長さを考えながら行う(グランドフォールしない長さを見極めてロープをだす)

 ト)クライマーがフォールするとき、引っ張れば良いというものではない。引っ張れば、ロープの張力が作用して、クライマーが岩に叩きつけられてしまう。また、ロープを出しすぎると、落ちたクライマーが壁に戻れなくなり、途中でトライ放棄になる。オーバーハングで落ちて、クライマーが宙吊りになったとき、クライマーを壁にもどしてやる作業ができるか?(これは難作業だ。説明追加)

 2)特殊なビレイ、作業ができるか?

イ)ダイナミックビレイができるか?ダイナミックビレイというのは、クライマーがフォールしたとき、単にロープをタイトに止めるのでなく、むしろルーズにする、いわゆる「流す」という方法だ。オーバーハングでフォールした場合、タイトにしておくと、ト)でも触れたように、クライマーに円運動のモーメントが働いて、岩にぶつかる恐れがある。それを防ぎ、クライマーを真下に落とす技術である。

 これには、落ちた瞬間、一定程度(30-50cmだが、これもケースバイケースだ)出す方法があるが、実際にはタイミングもあって、むずかしい。お勧めは、落ちると思う際に、あらかじめロープを一定程度出しておく方法である。

 いずれにしても、ロープをあまり出しすぎると、クライマーをテラスに落としたり、大きく振らして岩角にぶつける危険もあり、それを見計らってロープを出す。これは何度経験しても、瞬間、冷や汗ものだ。ビレイヤーにとって、もっとも緊張する瞬間だ。

 ト)オーバーハングで、クライマーと協力しヌンチャク回収のビレイ作業ができるか?インドアクライマーはヌンチャクが固定された壁しか知らないので、想像ができない。じっさい、これを説明するのは、難しい。

 斜度が120-135度でオーバーハングしている20-30mの大壁を想像してほしい。そのかべに10本のヌンチャクがあり、これを回収する。最初の上から2-3本の回収は何とかなるだろう。しかし、最後の方になると、アンカーから真下にぶら下がっているクライマーとヌンチャクがある壁との距離は7~10mも離れてしまう。

 壁に取り付いて1本はずし、あらためてロープにぶらさがり、また壁に近づいて1本はずすという作業だ。クライマーもかなり難しい作業だが、その際、ビレイヤーのロープの適当な長さの、それもクライマーの動きに応じた出し入れが大切だ。とうぜん、作業全体に危険が伴う。

 ロ)回収用ビナの使い方を理解しているか。これは、上記のような極端な場合、回収作業のためにハングの壁の途中の回収用ビナに、カラビナをかけてクライマーのロープをそれに通しておくことで、クライマーの振られるモーメントを小さくして作業を軽減しようという方法だ。登られている壁なら、残置ビナがある場合もあり、それを利用する。ない場合は、前記の方法で大作業をするか、自分で途中にボルトに、ビナないしヌンチャクで回収ビナを作る。

 ハ)オーバーハングで落ちて、クライマーが宙吊りになったとき、クライマーを壁にもどしてやる作業ができるか?(これは難作業だ。説明追加) 

 

 このほかにも、ビレイヤーが岩にぶら下がってやる、ハンギングビレイなどもある。いずれにせよ、とくに外岩の場合は、インドアと違って足元がよくない。クライマーが落ちた瞬間、ビレイヤーが岩に躓いて転んだり、あるいは崖から落ちて、2人ともグランドフォールという事故もある。当然、その場合は、ビレイヤーがセルフビレイをしなくてはならないが、ビレイヤーの動きを殺してしまうセルフビレイでは、ビレイの意味もなく、かえって危険という場合もある。これらのことは、ケースバイケース、経験しかない。