3-1.クライミングの登り方は結局、2つから3つに集約される

 

 

 言うまでもないが、クライミングは「登る」スポーツである。「 登る」という行為は、手足を使って上方に移動する動きである。クライマーの身体の動きを見るとき、どうしても手の方に目が行きがちだが、登っているのはあくまで足であり、手は身体を支える機能が大半である。手だけで登っていく場合も中にはあるだろうが、それは例外的なものである。

 さて、現在行われているクライミングで、クライマーは壁をどのように登っているだろうか?

 登りのフォームと考えられるものはおよそ3つある。 まずスタート図のように、クライマーが壁を前にして、足元の右(イ)ないし左(ロ)にストーンがあり、身体を支えるホールドはクライマーの肩の上、手で保持しやすい位置にあるとする。

 そして次に取ろうとするホールドは右上方(ハ)にあるとする(左右どちらでもいいのだが、ここでは右にして考える)

 そうした場合、クライマーが登る方法は、足元の(イ)ないし(ロ)のいずれかのストーンに足で乗る方法を考えればいい。

 まず、(ロ)(目指すホールドと同じ右側)を使う場合を考えてみよう。この場合はストーン(ロ)に右足で乗っていけばいい<①図>、そして右手で目指すホールドを取る。

  今度はストーン(イ)を使う場合(使うストーンがクライマーの左側、めざすホールドと反対側の場合)だが、この場合のつぎの2つの登り方が考えられる。

 1)まず左手で支持点となるホールドを取って軸にし、右足でストーン(イ)をアウトサイドで蹴って、半身(はんみ)となって立ち上がり、右手で目指すホールド(ハ)をとる<②図>。

 2)もうひとつは左手でホールドを取って身体を支え、左足でストーン(ロ)に乗り、右手で目指すホールド(ハ)をとる<③図>。

 さて、これらの登りだが、①図の登り方は「正対(による)乗り込み」と呼ばれるフォームで、身体が壁の方を向いて、3点支持で重心は両足の間に置いたまま、ホールド(ハ)を取りにいくフォームである。したがって前節で見た、静的な正対フォーム(=3点支持=重心が両足の間)を動的に変えたフォームと言える。なお、乗り込んでいくタイプで、ストーンが高い場合、「ハイステップ」と呼ばれている。

 次に、②図の登りは、身体を壁の方に向けず、いわば斜めに構えた半身(はんみ)の姿勢で伸び上がる。これが、いわゆる「カウンターバランス」と呼ばれるフォームである。

 つまり、2章で見たティルティング<2点支持=重心を両足の外側に出す>と呼ばれる静的なフォームを動的に変えたものである。

 最後に③図だが、使用頻度はかなり低いので無視してもいい。これはイ)のストーンがやや高めにあって、右足では乗り切れない場合などで使う。名称がないので、ここでは仮称として<リフティング(lift:吊り上げ)>と呼んでおく。いずれにせよ、これは考えなくともいい。

 以上が一般に流布している説明だ(実際はここまでちゃんと書いているのはない)。しかし、これは実は大切なものが抜けていて、それこそ間抜けな説明である。

 以下、抜けているものを説明しよう。結論から言うと、重心の位置はストーンの間とかでなく、ストーンの真上に置く場合の観察が抜けている。それは微妙な境界だからーという反論も当然あるだろう。しかし、現代のクライミングは、そういう方向にあり、それがメインの動きになっている。書いているのは高難度のクライマーじゃないのかな?壁の難度と思考の難度は違うのだろうね。

 結論から言うと、ジャンプである。ジャンプの踏み切りはストーンを真上からおこなう。それで、ジャンプとはなにか、といえば、とうぜんボルダリングだろう。ボルダラーが書く教本がこれだから手に負えない。なにも見ていないのかな?原稿はどこかからのパクリなんだろうか?

 愚痴はこのぐらいにして、この「ジャンプ」だが、基本はめざす自分の真下のストーンに踏み込んでスタートするのが基本だが、ホールドの側のストーンを使うことも多く、まれに反対側のストーンをインサイドで蹴る場合もあるだろう。

 ともかく、このジャンプを含めて登り方は大枠で4つにまとめられるというのが、私の結論である(もちろん中間的な動きはある)。以下に登りのタイプをまとめてみよう

           <静的フォーム>   <動的フォーム>

●3点支持のフォーム   正対     → (①図)正対乗り込み       *ただし乗り込みの瞬間は2点になる

 

●2点支持のフォーム ティルティング→ (②図)カウンターバランス

             同    → (③図)リフティング

  

  以上の3つの動的フォームを比較すると、正対乗り込みは先に見たクライミングの要件の①安全性・安定性は満たしているが ②持久・省力 ③運動域の拡大 にはやや欠けるところがある。乗り込みには体幹の力がいるほか、ホールドが遠くなると届かない。ただし、このフォームはわれわれ日常生活の動きの延長にあり、誰もが意識せずとも使うことができ、うまい下手の差が小さい。したがって、とくに練習で技術を磨くというほどのものではない。自然にできるようになる。

 なお、この正対乗り込みを勢いをつけて伸び上がる場合、ハイステップと呼んでいる。

 つぎにカウンターバランスだが、練習でうまくなれば、クライミング要件の①、②、③ともにそこそこ満たしてくれる。足で立ち上がるので、パワーロスがないし、立ち上がるストーンが高いと、運動域が伸びて、かなり遠くのホールドを飛びつくように取れる。問題は瞬間、身体が崩れないかどうかだが、これはうまい下手の差がかなりある。ということは、練習すれば、伸びる余地があるということだ。

 気をつけなくてはいけないのは、このフォームはわれわれの日常生活では、まず出てこない動きだということ。動き自体はさほど難しくはないのだが、初心者は登っていて、このフォームをとっさに思いつかない。さらにアウトステップで踏み込む足に慣れないことと、スタンスをバランスよく選び使えないこと、などの問題がある。

 しかし、クライミングではこのフォームはかなり重要で、フリークライミングを学ぶ初心者の最初に出くわす、最大の関門がこれである。

 そして、もうひとつリフティングだが、これはめったに出てこない。安定感はあるが、運動域が伸びるというほどのものでもない。こういう登り方もあるか、という程度に考えていればいいだろう。