3-2.クライミングのジャンルから、基本要件を絞り込む

  前節では動きの基本となる「フォーム」について、それがクライミングに必要な目的(要件)を充たすべく、考えられるべきものだということを述べてきた。

 ではわたしが言うクライミングのフォームがあるとして、そのフォームを決めていく基本的な要件(必要条件=野球のピッチングならスピード、制球など、バッティングならミート、球をとばすこと)があるわけだが、それは、何だろうか? 

 

 それが決まれば、つぎのステップとしてどのようなフォームが必要かが見えてくる。フォームはあらかじめあるものではない。フォームは作るものだ。

 

 

  では、それなしではクライミングにならないもの、不可避であるもの、つまりクライミングの要件と思われるものは何だろうか。

 

 それに具体的に言及する前に、実際のさまざまなクライミングがどのような要件の下で行われているか、そして、どのような身体の動きを導いているか、クライミングの各ジャンルからトータルな観点から拾い出してみよう。

 アルパイン、ルートフリー、ボルダリング、この3つのジャンルの考察が、クライミングとはなにか、どんな要件が問われているか、のヒントを与えてくれる。

 

 まずアルパイン(マルチピッチ)クライミング。このクライミングの最終目標は登頂であり、前提となっているのは、なによりも安全性、その他、荷物の携行、それにともなう長時間の岩場での滞在のための持続性などの要件である。安全に目標が達成されれば、どのように登ったかは問われない。

 クライミングの安全性という要件では、端的には落ちないことが重視される。岩場は整備されていないし、ピンとピンの間隔も遠い。落ちて軽い怪我であっても、撤退できない怖れがある。荷物の携行が身体の動きに制限を与えるので、なおさらだ。

 一方で頂上という目標、岩場での長時間の逗留、さらに天候などの環境に対する対応が、行動の持続性を要求している。

 

 つぎにフリークライミングだが、マルチピッチもあるが、基本は10-40m程度のショートルートである。もちろん安全性は大きな要件だが、ゲレンデの環境は整備されていて、ホールドやスタンスも信頼感があり、比較的安全だ。目標は難度のある壁を登ろうというもので、荷物は持たないし、せいぜい20-30分ほどの登りであり、持続性の要件もその範囲内のものである。オンサイトということもあるが、フリーは落ちることはいとわない。難度を克服するためのトライであり、落ちない登りかたはトライにはならないと考えられる。

  しかし、そうは言っても10-40mの壁を登るには、それなりのパワーがいる。あとで見るが、ボルダリングのように、1度や2度の瞬発力で登れるものではない。高さのある壁を通過しながら、高難度の核心部分をいくつもクリアしようと思えば、パワーを維持しておかなければいけない。そのために身体の動きも無駄を避け省力的な動きが必要だ。つまり、ここでもっとも要求されるからだの動きとは、省力化+技術力・強度である。

 

 最後にボルダリングの前提と身体の動きを捉えてみよう。まずボルダリングの前提だが、安全性への配慮があまり必要ないほか、せいぜい10手、15手程度、時間にして10~20秒のトライなので、持続性、省力性などの要件がかなりとぼしい

 この結果、身体の動きは、純粋にパワーとテクニックに収斂している。課題を解決できるあらゆる方法が動員される。ボルダリングでは、環境もきわめて安全で、これへの配慮も軽いことに加え、持続的、省力的に体を動かすという、基本の動作もない。このことがボルダラーの身体の動きを決めていくことになる。

 

 


  ←前のページへ           つぎの3-3のページへ→

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          以下、残稿

 

セル1 セル2
    アルパインクライミング フリークライミング ボルダリング
安全性・安定性(A) 重心の位置

基本的に両足の間

積極的に両足の外側を選ぶ

×

このような位置の概念はない

省力・持続性(B) 支持数

3点

○~◎

3点もあるが、2点を積極活用

×

セオリーはない

強度、身体能力の発揮(C) 筋力、柔軟性など  △ A,Bの要因で減殺される ○ A,Bの要因でやや減殺される
  安全性(転倒回避)  持続性(省力性) 身体の移動、稼働 運動の強度、身体能力の発揮
アルパイン ○~△
 ルートフリー ◎~○
ボルダリング ×~△ ×

 

  安全性 持続性 省力 強度・身体能力依存
アルパイン ×
 ルートフリー

△~○

 

ボルダリング × × ×

 

 

 <どこかで使う>

 

 クライミングというのは、もともとは誰にでもできる基礎的な動きを前提にしたスポーツで、グレードの低い登りでは、特別の技術はいらない。フリークライミングやボルダリングが出現するまでは、以上の①安全性・安定性(転倒回避)および持久性(省力性、脱力)を主なテーマにしたスポーツであった。もちろん、現在もこの要素はかなり大きなものがある。