3ー1.手の問題・・パンプは鉄棒理論で解消できる=姿勢取りに繋がる動き①



 この章ではこれまで、モードを中心に、身体の基本の動きの仕組み、組み立てを説明してきた。クライミングの理論の体系化を意識したためだ。
   しかし、実はクライミングにはもっと大切なことがある。
それは手の使い方、足の使い方だ。ふつう、インストラクションでは、どのホールドを(手で)取るとか、どう持つとか、どのスタンスに乗るとか、それ以上のことは言わない。
 見て明らかな外見の身体の動きの解説は、少し登れるクライマーなら、誰でもできる。
 しかし、ごく当たり前の身体の使い方で、外見から違いがはっきりしない動きを考えるのは難しく、並の思考力では歯が立たない。身体の動き、姿勢と関連させた、手と足の使い方は、意識的な観察を何度も繰り返さなくては、見えてこない。
   クライミングでよく問題とされるパンプも、ふつう短絡的に「手登り」が原因だと言っている。深く考えないから、このような基本的な勘違いが、まかり通ることになる。
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 さて、パンプというのは、よく初級者が訴えるもので、前腕が張って登れなくなってしまうものである。このパンプはどうして起きるのだろうか? ふつう言われるのは「手を引き付けて身体を引き上げるからだ」「手のぼり(手を使って登るの意味)しているからだ」というものである。

 そこで「腕をのばす」というのがクライミングのセオリーのようになっていて、スクールのインストラクターなども、さかんにこれを言っている。
 これをまったくの間違いと言わないけれど、実際にやってみればわかることだが、腕をずっと伸ばしたまま登るというのは少なからず無理がある。腕を伸ばすということだけを鵜呑みにして姿勢をつくると、身体はのけぞってしまう。
 
 それにクライミングで起きている前腕のパンプの感覚は、引き付けで起きるものとは少し違っている。実際にジムにあるキャンパシングボードで、思い切り引き付けをやって試したらいい。
 懸垂やキャンパシングを長くすれば、もちろん疲れで続けられなくなるが、そのときほんとうに前腕の張りが起きているだろうか? 
 いわゆる前腕のパンプではないのではないか?かりに起きていても、クライミングのときのあの腫れぼったい感覚とは、少し違うと思う。
 そこで、どうすればいいんだろうと、ベテランのクライマーの登りを観察してみると、腕は結構曲がっている。ただし、彼らの場合はパンプはしていない。パンプの原因はじつは他にあるのである。

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  結論から言うと、クライミングで起きる前腕のパンプの8割かたは、身体の傾きをおこそう、姿勢を保とうとして、ホールドを捉えた手で、身体のかたむきを補正しようと努力するために起きている。
  そうした姿勢の維持に使う手の力は大きくはない。しかしたとえ軽度であっても、筋緊張は、その継続が筋肉をいちばん疲れさせる。
 クライミングの姿勢維持は、せいぜい5-10秒だろう。しかし、それを随所で行い、クリップごとに筋緊張を起こしていれば、本人は力を使っている自覚はないのだが、手はいつの間にか張ってしまうのだ。 

 

典型的な例を図1と図2で示した。図1ではクライマーは両足でスタンスに立っているのだが、スタンスの位置が悪くて、姿勢を維持しようとして、両手で身体の傾きを補正している。

 図2はクリップの際の姿勢である。この場合も、クリップするために、傾いている身体を起こそう、あるいは安定しない姿勢のブレをなくそうとして、反対の手で姿勢を維持している。
 このとき手を引く方向は必ずしも一定ではない。身体が不安定なので、むしろ腕で身体がブレないように維持ないし、保持している、といった方が正しいだろう。
 だから本人は大きな力を使っているという自覚がない。実際に手の負担も軽度の腕の緊張に過ぎない。
 しかし、姿勢が定まらない状態で、姿勢を保とうとして、こうした手による姿勢コントロールを継続的にやり、またクリップするごとにこうした姿勢制御をおこなえば、腕の筋緊張は継続的に、そして繰り返し起きることになる。

  また、軽度の筋緊張の継続がもっともよくない。それは脱力するときがないからだ。筋肉は強い緊張でも、緊張と脱力が交互に起きれば、そのことで回復が起きるので、張ってしまうということはあまりない。

 さらにこの姿勢保持で手を使う場合、二の腕(上腕)は使わない。それほどの強度でないし、微妙な姿勢調整だからだ。だから、前腕でのコントロールになる。そして、筋緊張は軽度からせいぜい中程度だから、本人に腕を使っている意識がない。それだけに、さらに厄介だ。
 要するにパンプというのは、姿勢制御のため腕で身体を補正しようとし、本人の意識なく、継続的な軽度の筋緊張を続けることによって起きている。

  考えてみてほしい。だいたい、核心部でもない限り、だれがいちばんつらい方法である、手で力いっぱい引き付けて登るだろうか? そうした動きがつらいことは本人がいちばん知っている。そんなことは実際にはしないものである。

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  それでは、こうした姿勢コントロールのために起きている腕の筋緊張をどう回避すればいいだろうか?
 

ひとつは姿勢コントロールをしないこと、つまり手による姿勢補正が必要な状態を最初からつくらないことである。この件については、ティルティングという静的フォームが有効であるが、これは次節で紹介、詳説する。

 二つめは冒頭で見た、張力を一方向にして、手を伸ばし身体全体で体重をかける姿勢を実現することである。不安定で、どちらに張力が行くか、分からない状態での保持は方法のコントロールで、必ず前腕に緊張が来る。身体全体で一方向に体重を掛ければ、緊張は背中(広背筋)、肩、上腕に分散できる。
 だから、ふつう言っている「手を伸ばす」というのは、ここで示している姿勢とは、ちょっと違うことが分かると思う。鉄棒に体重をかけてぶら下がるように、手や肩をふくめ身体全体で、ホールドにぶらさがる、あるいは鉄棒を手で引く状態を作るということである。

 実際に鉄棒にぶら下がってみるといい。鉄棒に30秒から1分、ぶら下がった後、クライミングのときのような腕の張りが起きているかどうか、確かめてほしい。
 鉄棒にぶら下がると、背中から肩、さらに腕、手にかけて筋肉が伸ばされるだけで、筋緊張は起きない。筋肉は収縮し、緊張することでパンプが起きるが、弛緩、脱力、筋肉の固めでは、疲労は出ても、いわゆるパンプは起きない。むしろストレッチ効果となる。
 したがって、パンプを避けたければ、クライミングのあらゆる場面で鉄棒のぶら下がり状態を作り出せばいいということになる。

 ビギナーにとっては、身体が登りの姿勢にあるとき、この荷重方法をとるのは難しいかもしれない。しかし、少なくとも、クライミングで静止中やレストのとき、クリップ体勢に入るとき、さらにルーティンな移動のときなど、この姿勢を作り出すようにしよう。

 

 具体的にこの体勢を作る場合、すぐ思いつくのは、下図のようにホールドの真下にぶら下がる(イ図)方法だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、実際にはこの体勢はスタンスの位置が高すぎたり、左右で位置が違ったりして、真下に引くには無理がある場合が多い。そこで、真下から身体の位置を変え、身体をどちらかに倒して斜め下方に引くようにする(ロ図)。
 すこし先走った説明になるが、この姿勢が次の節で説明するティルティングで、身体を倒すことで手を伸ばすわけだ。
 なお、イ図のようにホールドを真下に引くというのは、分かりやすいが、これは厳密に言うと、実際にはやや斜めになる。
 身体の構造上、身体をどちらかに傾ける方が保持しやすい。

 このほかホールドが近い場所にあり、ひじが曲がってしまう場合などは、身体をひねって手を巻き込む方法(ハ図)がある。
 いずれの場合も、身体の複数の筋肉を使い、一定方向に伸ばし、弛緩させて体重をかける。そうすればパンプは確実に防止できる。

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 しかし、鉄棒のようにぶら下がっていると、体重を預けるわけだから、保持する手や指に負担がかかるのでは?という疑問もでるだろう。
  しかし、それはホールドの大きさと相談し、保持している手およびホールドをチェンジする。もちろん同時に体勢も変える。
  いずれにせよ、同じ姿勢を続けず、同じ手を使わず、同じ筋肉を同じ方向で使わず、緊張を継続させないことが、クライミングの秘訣である。
 この鉄棒理論のフォームは、後で見る「ティルティング」「フラッギング」のほか、運動のフォームである「カウンターバランス」でも使われる。

 さらに何事も例外があり、腕を曲げざるをえない場合、曲げた方がいい場合もある。
  その場合は曲げてもいいので、曲げた腕を体幹で引きながら、方向性を変えず、その状態のままを維持し、腕を動かさない(ロックする)。
 引き付けだけは回避するのがポイントだ。


 先にも触れているが、クライミングで手を伸ばすという指導は、理屈としても無茶である。手だけ伸ばしたら、身体が後ろにのけぞってしまう。
 手を伸ばさせたいなら、せめて腰を落とす(あるいは腰を入れる)ようにでも指導すべきだ。腰を落とせば、自然に手が伸びる。
 さらに、手を伸ばすことに必要以上にこだわることはない。曲げてもいいが、曲げたままで、引き付けたり、動かしたりしない、そのままロックしておけばいい。それなら手は使ったことにならない。

 さらに鉄棒理論からはずれることになるが、クライミングでは腕にしろ何にしろ、筋肉が疲労しやすい状態、筋収縮や筋緊張を如何に回避するか、という点を留意しなくてはならない。
 軽度の負荷であっても、同じ姿勢をとるなどして、同じ筋肉の部位の緊張、収縮を続けると、最も早く疲労する。

 したがって、この問題を解決するには、その部位が疲労する前に、身体を動かし、体勢を入れ替え、緊張する筋肉をチェンジしていくことが求められる。
  鉄棒理論でも同じで、レストするときは、つねに鉄棒状態を作り出しながら、あとで説明することになるが、たとえばカウンター姿勢(詳細は4章)を左右に入れ替えたり、ぶら下がったり、フラッギング(同)に入ったりすることだ。
 ときに次のホールドを取りにいく際は、反対側の腕を曲げたり、引き付けをして、身体の引き上げが必要なこともあろう。しかし、 動きを起こすときを狙って引き付けをおこない、それが終われば、体勢を戻し、いちはやく疲労しにくい鉄棒姿勢に入る。
 いずれにせよ、緊張する筋肉を入れ替えながら動くというのは、ほとんどひとつの戦略なのである。

●   ホールドの握り込みもパンプの一因

  手の問題でビギナーにとって、もうひとつ大事なのが、緊張や恐怖から起きる、手によるホールドの「握りこみ」である。クライミングにおいて、握りこみは99%御法度である。

 前腕がパンプする原因は、「手による姿勢維持=制御」なのだが、理屈から言うと、この「握りこみ」も結局は手による制御であり、同種の問題とも言える。
 壁に取り付いて2-3回目のビギナーで、極端な「握りこみ」が起きる。壁に張り付いているだけで腕がパンパンにはれ上がるのである。
 これは「危ない」「落ちる!」というメンタルなことが原因で、手のひら、前腕でそれを防ごうとするためだ。
 だから身体の動きとしては、結局、最初に見た手による姿勢の維持、補正と似ている。手の指、手の平、さらに前腕だけで、身体の倒れや傾きを無理に補正しようとしているのだ。
 それは出来るはずもない。したがって、手のひらから、手首、前腕、上腕、肩、背中へと身体全体を連携させてホールドを持つようにすることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、実際にはこの体勢はスタンスの位置が高すぎたり、左右で位置が違ったりして、真下に引くには無理がある場合が多い。そこで、真下から身体の位置を変え、身体をどちらかに倒して斜め下方に引くようにする(ロ図)。
 すこし先走った説明になるが、この姿勢が次の節で説明するティルティングで、身体を倒すことで手を伸ばすわけだ。
 なお、イ図のようにホールドを真下に引くというのは、分かりやすいが、これは厳密に言うと、実際にはやや斜めになる。
 身体の構造上、身体をどちらかに傾ける方が保持しやすい。

 このほかホールドが近い場所にあり、ひじが曲がってしまう場合などは、身体をひねって手を巻き込む方法(ハ図)がある。
 いずれの場合も、身体の複数の筋肉を使い、一定方向に伸ばし、弛緩させて体重をかける。そうすればパンプは確実に防止できる。

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 しかし、鉄棒のようにぶら下がっていると、体重を預けるわけだから、保持する手や指に負担がかかるのでは?という疑問もでるだろう。
  しかし、それはホールドの大きさと相談し、保持している手およびホールドをチェンジする。もちろん同時に体勢も変える。
  いずれにせよ、同じ姿勢を続けず、同じ手を使わず、同じ筋肉を同じ方向で使わず、緊張を継続させないことが、クライミングの秘訣である。
 この鉄棒理論のフォームは、後で見る「ティルティング」「フラッギング」のほか、運動のフォームである「カウンターバランス」でも使われる。

 さらに何事も例外があり、腕を曲げざるをえない場合、曲げた方がいい場合もある。
  その場合は曲げてもいいので、曲げた腕を体幹で引きながら、方向性を変えず、その状態のままを維持し、腕を動かさない(ロックする)。
 引き付けだけは回避するのがポイントだ。


 先にも触れているが、クライミングで手を伸ばすという指導は、理屈としても無茶である。手だけ伸ばしたら、身体が後ろにのけぞってしまう。
 手を伸ばさせたいなら、せめて腰を落とす(あるいは腰を入れる)ようにでも指導すべきだ。腰を落とせば、自然に手が伸びる。
 さらに、手を伸ばすことに必要以上にこだわることはない。曲げてもいいが、曲げたままで、引き付けたり、動かしたりしない、そのままロックしておけばいい。それなら手は使ったことにならない。

 さらに鉄棒理論からはずれることになるが、クライミングでは腕にしろ何にしろ、筋肉が疲労しやすい状態、筋収縮や筋緊張を如何に回避するか、という点を留意しなくてはならない。
 軽度の負荷であっても、同じ姿勢をとるなどして、同じ筋肉の部位の緊張、収縮を続けると、最も早く疲労する。

 したがって、この問題を解決するには、その部位が疲労する前に、身体を動かし、体勢を入れ替え、緊張する筋肉をチェンジしていくことが求められる。
  鉄棒理論でも同じで、レストするときは、つねに鉄棒状態を作り出しながら、あとで説明することになるが、たとえばカウンター姿勢(詳細は4章)を左右に入れ替えたり、ぶら下がったり、フラッギング(同)に入ったりすることだ。
 ときに次のホールドを取りにいく際は、反対側の腕を曲げたり、引き付けをして、身体の引き上げが必要なこともあろう。しかし、 動きを起こすときを狙って引き付けをおこない、それが終われば、体勢を戻し、いちはやく疲労しにくい鉄棒姿勢に入る。
 いずれにせよ、緊張する筋肉を入れ替えながら動くというのは、ほとんどひとつの戦略なのである。

●   ホールドの握り込みもパンプの一因

  手の問題でビギナーにとって、もうひとつ大事なのが、緊張や恐怖から起きる、手によるホールドの「握りこみ」である。クライミングにおいて、握りこみは99%御法度である。

 前腕がパンプする原因は、「手による姿勢維持=制御」なのだが、理屈から言うと、この「握りこみ」も結局は手による制御であり、同種の問題とも言える。
 壁に取り付いて2-3回目のビギナーで、極端な「握りこみ」が起きる。壁に張り付いているだけで腕がパンパンにはれ上がるのである。
 これは「危ない」「落ちる!」というメンタルなことが原因で、手のひら、前腕でそれを防ごうとするためだ。
 だから身体の動きとしては、結局、最初に見た手による姿勢の維持、補正と似ている。手の指、手の平、さらに前腕だけで、身体の倒れや傾きを無理に補正しようとしているのだ。
 それは出来るはずもない。したがって、手のひらから、手首、前腕、上腕、肩、背中へと身体全体を連携させてホールドを持つようにすることだ。

 

 まず、指でコントロールするのではないので、ホールドからずれない程度の指の力にする。これで普通の「つかみ」になる。さらに、ホールドに添えた手のどの方向に、張力がかかっているかを知る。落ち着いて、手や指にかかる張力や圧をに耳をすませる。つまり手のセンサーを働かせる。
 最後に、その圧の方向に手の引きを集中する。そうするとホールドに触れる手や指の部分は最小限になる。これが「引っかけ」であり、 手にかかる張力や圧を、上腕から、さらに背中、そして身体全体で受け止める。決して手だけで引くのではない。
   余計な握りやつかみは、本来必要なく、接点を無用に広くしたり、力を入れることは、バランスや張力を捉えるセンサーにとって、雑音にしかならないのだ。
   この節では、ビギナーレベルで必要な、ごく一般的な手の使い方だけを紹介しておいた。さらに詳しくは6章00節の手のひら理論を読んで欲しい。