2-3. 登りは次のように体系化できる・・モード、フォーム、テクニック

 ●足で登ることが基本になる

 すこし退屈かもしれないが、各論に入る前に、筆者が考えるクライミングの身体の動き(登り)の構造を下図に示す。
 登りの構造の最初の分類となっているのは、上体(手)で登るか、足で登るか、の2つの方法である。
      ・上体(手)で登る
      ・足で登る
 このうち、手で登る(上体を使う)方法は、手っ取り早いのだが、長く続かず、現実的でない。

  そのため、メインの登りは足で登る方法が中心となっている。ふつうクライマーは、クライミングとは足を基本とした方法だと思っているし、市販の教本でも、登り方(ハウツー)は足で登ることを前提に、組み立てられている。
  しかし、実は手で登る方法というのものもあり、クライマーも、あまり気づかずにその方法を使っている。          
 クライミングで、手(上体)で登る方法というのは次のようなものである。

        ・這い上がり
        ・懸垂登り
        ・レイバック
        ・デッドポイント

   レイバックは、クライミングの一つのフォームではあるが、上体と手による引きつけに依存していて、足を使う登りでなく、上体を使った登りに分類される。
 一定の壁の状況に有効だが、非常に消耗度の激しい登り方であることに加え、クライミングの他の動きと関連性に乏しく、技術習得もその技術だけの独立的な傾向が強い。
 デッドポイントも、下半身は動かさず、上体の体幹を使う。懸垂や這い上がりは手による登りであることは言うまでもない。
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<モード>
 さて全体の構造だが、<足を基本にした登り>のベースの上部に乗っかっているのが、<モード> である。モードというのは、日本語で方式、様式といった程度の意味である(モード一般を言う場合、ひとつの枠組みという意味で、パラダイムと呼んでいる場合もある)。
 モードはクライミングのすべての動きのベースとなり、動きすべてを貫くものである。手足の支持点と身体の重心の位置によって3つに分けられ、本稿ではA、B、Cの3モードで呼称している。より詳しくは00節で説明している。

 <フォーム> 
 さらに、この上にあるのがフォームと呼ばれるもので、ある一定の効果を狙った基本の身体の動かし方の定番、技術セオリーと言ってもいい。
 力の組み立て、身体の力学から成立しているが、この背後にある、モードとは切り離せず、有効なモードによって、フォームも決まる。
 このフォーム、そして次に見るテクニックは、クライミング中、必要に応じ、また一定の狙いを持って使うもので、常時使うものではない。
 むしろ登りの70~90%は、モード+ルーティンな動き(フォームやテクニックなどに至らない動き)であり、実はそちらの方が圧倒的だ。

   <テクニック>
 さらにこの上に、テクニックがある。テクニックというのは、身体の基本的な動きであるモードやフォームから、やや独立した動きであり、フォームとともに使われる場合もあるが、独立して、モード上で使われる場合もある。
 野球のピッチングで投球フォームが、ここでいうクライミングのフォームだとすれば、カーブやフォークボールなどの変化球が、この「テクニック」にあたる。 
<ムーブ>
 最後に、慣用句になっている「ムーブ」だが、これは今までどおり、あらゆる動きを指す言葉とした。いま、クライミングで「ムーブ」という言い方は、筆者の規定した、「テクニック」や「フォーム」はもちろんのこと、「モード」に対しても使われるし、さらに手順の意味の「シークエンス」を指す場合もある。

 あまりに何でも来いの語は便利だが、結局何も説明できていない、ということになる。ただ、ここでは、詳しく登りの身体の動きを規定する新しい概念を作ったので、このすばらしく便利な「ムーブ」という言い方は、人口に膾炙しているままに任せ、そのまま使用するのが、いいだろうと考えた。