2-1.支点と重心で分類すると          登りはABCの3モードしかない

    登りを実現しようとする場合、あなたはまず何を考えるだろうか?どの教本も、ほとんどが、力の組み立て、わざの習得、そのためのハウツーに終始している。

 しかし一向にグレードが伸びず、停滞しているクライマーを見ていて、何がまずいか、と言えば、わざが使えないとか、技術が足りないとか、そんなことではない、みんなそのことは分かっているはずだ。。
 そうではなくて、うまいクライマーと比べて、身体の動きがよくないとか、動きがばらばらでスムーズでない、とかいった印象を持つのではないだろうか?

 つまり、わざのハウツーの前に抜け落ちていることがあるのだ。それは、どのように身体を動かすか、いかに身体を移動させるか、の問題である。そして、その際、最も重要なカギとなるのが、自重を、つまり移動の際のカナメとなる重力を、どのようにコントロールするか、である。

 この身体の移動、コントロールの例を前節までに、逆上がりや、自転車乗りなどの典型的な動きの中でで見てきたとおりだ。

 クライミングも同じだ。重心を、つまり重力を無視して、手の力の引き付け、あるいは足の蹴り上げなどがすべてと考え、前進しよう、登ろうとしても――つまり力の組み立てだけで解決しようとしても、やがて破綻する。

 それは、われわれの身体の動き、移動が、基本的に重力の捌きで成立しているからだ。いわゆる力の組み立ては、その後の話である。

  ●移動の動きは、支点数と重心のかけ方で決まる

  クライミングにおける基本の身体の動かし方を、重心と支持点によって分類し、以下にモード(方式、様式)という概念で捉えてみた。

 <Aモード>
 ひとが地上に立つ場合、基本の姿勢は、両足の2点に体重をのせる直立姿勢である。

われわれの移動のいちばん基本の「歩く」という動き(左の図)も、この「直立」の姿勢からスタートし、一方の足に乗っていた体重を前に投げ出し、これをもう一方の足で受けとめる。

 この繰りかえしが「2足歩行」であり、手は補助以外に使わず、体重をかけない。あとあと、この概念を何度も使うので、これを直立・2足歩行の方法をAモードと呼ぶことにしよう。モードというのは方式とか、様式の意味である。

 この姿勢は、重心が両足の間にあり、安定性に優れ、疲れもすくない。しかし、両足が邪魔する結果、手足を横方向に伸ばしにくく、運動域がどうしても狭くなる。要するに遠くのホールドが取れない。ただ、われわれにとって日常的な姿勢なので、誰でも慣れていてすぐできる。

  しかしやってみれば分かるが、このAモードでは、とても壁は登れない。そこで、手にも足と同じように体重をかけ、四つんばいのような姿勢をとり移動する。これが次のBモード、つまり登攀である。

<Bモード> 任意の手と足を選び、それに積極的に体重をかけて、重心を移動していく。アルパインで言う3点支持もこうした姿勢である。この手足4点支持(実際に使うのは2~3点)の方法をBモードと呼ぶことにしよう。

 この方法は、手で支えるので一方の足を浮かせることができ、片足だけの荷重も可能になる。身体を横に倒せるので、運動域が格段にひろがる。遠くのホールドが取れるのである。したがって悪い条件の壁も登ることができる。手に負担がかかるが、それさえ(姿勢などで)軽減できれば安定し、疲れも少ない。

 これら2つの動きの分類は、手を使うことと、体重を支える支持数の違いである。支持点を変えることは、とうぜん重心移動を意味するが、この程度の重心コントロールは日常の延長なので、動きの中であっても、誰でもできるだろう。

 しかし、Bモードになると、身体の支え方は支点の違いだけでなく、体重の支え方で変化が現れる。それは、体重=重心をどこに置くかという点だ。

 重心はふつう支持点の間に置くというのが一般的だが、それ以外に支持点の外に置くという方法もある。

 <Cモード> 一例として左で示した姿勢は、手足2ないし3点を使っているので、Bモードの延長にある。しかし、重心が両足の間からはずれていて、そのままでは倒れてしまうので、手で支えている。
 この姿勢を利用すると、支点数は同じでも、重心の置き方が変えることで、登りに大きな違いが生まれる。そこでこれを区別してCモードと呼ぶことにしよう。

 注目すべきは、Cモードは身体の重心を両足の間から、外側にはずすことで、最大限に身体の傾きを強めることができることだ。そのことで、手の運動域はBモード以上に広がる。

  左図を見れば分かると思うが、ハ)のCモードの方が、手は広範囲に伸びている。つまり、遠いホールドがとれる。

 ちなみに、クライミング、とくにルートは、壁をジグザグに登っていく。頭上を目指して、垂直に登るものでなく、基本的に身体を振りながら登る。

 ともかく、そのように壁を登るとき、斜め上ないし、横方向の、より広範囲に手を伸ばすことができれば、有利であることはすぐに分かるだろう。

   このCモードは、疲労感は姿勢のとり方によって違うが、手に体重を預けて、寄りかかりの姿勢をつくれば、意外につかれない。その理由は、体重を預けてしまうため、上体による姿勢保持の必要がなくなるためだ。同じ理由からオーバーハングの克服にも有効だ(詳細はP00に)。

 このことについては、あとのフォームの紹介の「ティルティング」(P00)でも出てくるので、ポイントとして留意しておきたい。

 

 このように、クライミングにおいて、身体がどのような支点で、そしてどのように支えられているか、を分類すれば次のようになる。

 1)2足歩行で両足、重心は両足の間 = Aモード

 2)手足2-3点支持で支え、重心は手足2-3点の間

     = Bモード

 3)手足2-3点支持で支え、重心は手足2-3点のそと

     = Cモード

     この3つのかたちが、クライミングの身体の動かし方の基本中の基本となる。クライミングのあらゆる登りは、支点と重心の置き方(身体の支え方)で、A、B、Cモードのいずれかに分類される。

 これ以外に、クライミングのあらゆる身体の動きを的確に分類、表現する方法はないだろう。なお、付言しておくと、ここでは、モードをあくまで静的なものとして説明しているが、実際のクライミングでは、各モードは動きの中で交錯して現れる。

 したがって、運動域という点では、反動をつけることで、想像以上の広さを実現できる。つまり、かなり遠くまで手が伸び、ホールドを取ることができる。それと同時に、その都度の重心の移動、置き方の変化が、メリハリのある身体の動きをもたらして、登りの効果を高めることになる。

 

 要するに、壁を登るには、以上のABCモードのいずれかを、壁の傾斜やホールドの位置などに応じて有効にえらび、ロスなく入れ替え、繰り出していくことが問われる。

 しかし、人間の身体の機能には限界がある。そのいちばんの弱点は、手が足のようには強くないということである。そこで、効果的な姿勢、あるいはタイミングによって、弱い支点である手をうまく使いながら、必要なモードを実現していく。これが、クライミングの方法ということになる。

 

 さて、以上はあくまで、姿勢の分類とでも言えるもので、実際には、各モードを如何に効果的な動きとして、クライミングに取り入れるか、ということが必要だ。

 <kokokara>

 

 

 まずAモードだが、この姿勢は誰でもすぐにできるし、変えようもない。つぎのBモードだが、これもひと目見たところ、静止状態では、手と足で支えるということで、何の変哲もないように見える。

 <Bモード・コンパスの動き方>

 ただし、移動や登りの際に、ひとつの動きの方法が現れる。それは、Bモード・(手軸による)コンパスの動きとそれによる移動である。

 片方の手だけを考えてみよう。登るとき、ホールドを持ったこの片手を、コンパスの中心として、身体を移動させていく。

 手は曲がってもいいので、その手で身体を引き上げようとなどはしない。コンパスの中心をめぐる円のように、足を運んで、登りを稼ぐのである。なお、このとき他方の手は、身体を補助的に支えても、いっこうに構わない。

 さらにこの動きは、ごく短く断片的に使ってもいいし、他方の手を他のホールドで支えながら使って身体を動かすきっかけとしてもいい。

  この動きは、繰りかえし登っていれば、自然に了解される。そして4章で見る腕のパンプを防ぐ「鉄棒理論」のフォームにつながっていて、そのレベルまで実現できれば、大成功だ。

 

 ただし、コンパスモードという方法は、Bモードのうちの一部であって、すべてでなく、両手でもろに身体を持ち上げる場合もある。ケースバイケースだ。

 ●

 

 さて、A、B、Cモードのうち、最も重要なのはCモードである。それは、運動域の拡大と同時に、体勢の転換、レストの効果など、複数の要素もあわせ持っていて、壁をこなすための、多様で効果的な身体の動きを実現できるからだ。

 

 Bモードのコンパスの動きも練習が必要だが、このCモードはとくに意識して練習しなくてはならない。

 というのもA、Bモードは われわれ日常生活における身体の重心の取りかたと変わらない。しかし、自ら身体を倒していくCモードの動きは、われわれにとって非日常の動きであり、恐怖感が出て、思い切った動作に出れない場合が多い。

 身体が倒れると危険を感じ、どうしても、日常の重力環境に戻ろうとする。A、Bモードに戻ろうとする。その克服と慣れ、コントロールが必要だ。

 

 したがって、クライミングの際は重心をはずした身体の傾けに留意するほか、3章以下のページで「ティルティング」など、Cモードの動き方をする各種フォームの練習を、積極的にすることをお勧めする。

 Cモードの実現と効果のポイントは、①寄りかかりによる積極的なレスト体勢 ②動きの中でCモードを実現し、運動域を拡大する ③体勢の反転、入れ替えによる身体の捌き ④使用筋肉のストレッチ効果ーーなどである。

  <Cモードの実現方法>

 A、Bモードは われわれ日常生活における身体の重心の取りかたと変わらない。しかし、自ら身体を倒していくCモードの動きは、われわれにとって非日常の動きであり、恐怖感が出て、思い切った動作に出れない場合が多い。

 身体が倒れると危険を感じ、どうしても、日常の重力環境に戻ろうとする。A、Bモードに戻ろうとする。その克服と慣れ、コントロールが必要だ。

 

 Cモードの重心のはずし方と留意点だが、慣れのため、練習では大きくはずすことをお勧めする。しかし、実際のクライミングでは、かすかに倒れる程度、あるいはほとんど1本足で立っているという場合も多い。

 浮いている足の方は、インドアなら、ボードを押さえるぐらいがちょうどいい。身体の回転を押さえてくれる。

 また、足使いも実際には、本当の1本足から7:3,8:2といった程度の足のバランスもある。状況によって、Cモードはさまざまな体重の配分で使わなくてはならない。

 

  A、Bモードは われわれ日常生活における身体の重心の取りかたと変わらない。しかし、自ら身体を倒していくCモードの動きは、われわれにとって非日常の動きであり、恐怖感が出て、思い切った動作に出れない場合が多い。

 身体が倒れると危険を感じ、どうしても、日常の重力環境に戻ろうとする。A、Bモードに戻ろうとする。その克服と慣れ、コントロールが必要だ。

 

 Cモードの実現は、最初は①寄りかかりによる積極的なレスト体勢ーーを作れればいい。「楽だな」と思えたら成功だ。これが、3章にある「ティルティング」のフォームにつながる。使用筋肉のストレッチ効果ーーが感じ取れたら最高だ。

 つぎは ③動きの中でCモードを実現し、運動域を拡大する。重心をはずしながら、ホールドを取る。これは4章のカウンターバランスにつながっていく。身体の捌きによる必要に応じた体勢の反転、入れ替えーーまでできれば完全だ。

 ①から④に示したものは、Cモードの有効性、そして発展性だが、それほどに、Cモードは奥が深く、有効性を持っているのである。

 

 前節で、逆上がりや自転車乗りでの重心移動を前節で見たが、クライミングでは、Bのコンパスモードに加えて、このCモードの習得が、初級レベルまでの上達のコツ、あるいはツボになる。このCモードを随時に繰り出すようになるのが、イレブンを突破する関門になる。

 そのことを留意して、練習してほしい。この身体の捌きができれば、以前よりも格段に疲れず、キレのよい登りを実現することができるはずだ。

  

 最初に触れたように、ムーブなどのわざの前に、これらABCモードがある。実際の登りは、特別な技など知らなくても、モードによる身のこなし、重力の捌きで十分に登れるのである。また、逆に、このモードを理解していないと、いつまでたっても上達しないということになる。わざの習得が必要になるのは、10cぐらいからであり、そこから始めても遅くない。しかし、逆に、このモードを理解していないと、いつまでたっても上達しないということになる。

 

 以上、重力、重心の必要性を言ってきたわけだが、こうした考えは、何も新しいものではない。むかしのいわゆる「岩登り」でも、体系的に捉えていなかったものの、重力に対する問題意識はあった。

 それが、現代のクライミングでなぜ素通りになっているのか? ひとつには、クライミングの嗜好が、力の組み立てで登りを解決しようとするボルダリングに移ってしまったことが大きい。その結果、「クライミングとはすなわち、力の組み立て、身体の力学」という考えが、通念になってしまったからだろう。

 

 次節では、ビギナーの陥りやすい身体の動き、問題点から、モードに関連して、身体の動きにあらわれる刷りこみ現象について、考えてみることにしたい。  

 


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以下、残稿で、読む必要はありません

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

確かに、その方法は一定の有効性を持っている。

 しかし、その身体の力学、それだけを発展させていくと、あちこちで謎ばかりが、首をもたげてくる。クライミングの現実を十分説明できなくなる。ジャンルの違いなどその際たるものだ。

  それはクライミングの外見を捉えて、経験だけから組み立てることによる。実際の登りに関わるものが何であり、それがクライミングにどういう作用を及ぼすか、外見の印象だけではわからない。

 

 クライミングを考える際、身体の力学、力の組み立ては、誰でもそれを見れば思いつく。しかし、見逃してはならないもうひとつの重要な因数が、重力の捌きである。

 重心や重力の動きは微妙で観察しにくい。ときに、それなしでも目指す動きを実現することもできる。だから、この因数を忘れてしまう。

 たとえば、重力の働かない、あるいは働きにくい、水中や無重力空間を考える。その場合、純粋に身体の力学だけを考え、身体の移動を、ほぼ体重の持ち上げ、体重の運びで考えれば、ことは解決する実際にはこういう現実はありません)。しかし、地上における移動は、これとは違っている。

 

 重力、重心を考えるのは、何も新しいことではない。むかしの岩登りでは、構造的に捉えてはいなかったものの、重力に対する問題意識はあった。

  それが、なぜ現在のクライミング方法論で、素通り状態になっているのか?

 ひとつにはクライミングの嗜好が、身体の力学で登りを解決しようとするボルダリングに移ってしまったことにある。

 その結果、「クライミングの問題とはすなわち力の組み立て、身体の力学」という考えに、だれも疑問を持たなくなっている。

 

歩くという動きも、ひとつのパラダイムの選択である

 

 地上で人が移動する、シンプルでベーシックな「歩く」という運動でも、それを実現している主役は重心であり、決して身体の力学ではない。歩行は両足の間の、身体の重心の絶えざる解放と受容によって、実現されている。

クライミングのシステム
クライミングのシステム

 

 以上の図①では分かりにくいかもしれないので、具体的な人の姿勢の取り方を示したのが下の図②である。各モードの特徴を見ておこう。

 まず、2足歩行=Aモードは、重心が両足の間にあり、日常的な姿勢なので、誰も慣れていてすぐできる。安定性に優れ、疲れも少ない。ただし、両足が邪魔をする結果、手を横方向に伸ばしにくく、運動域がどうしても狭くなる。

 

 これに対して、手足4点・重心内側=Bモードになると、身体を手で支えて横に倒すことでき、その結果、手の運動域がひろがる(簡単に言うと、遠いホールドが取れるということ)

 具体的には、片足で乗り込み、手で支えて、斜め上のホールドを取る(図のa)などだ。手に負担がかかるが、それさえ軽減できる方法(姿勢など)をとれば、安定していて、疲れも比較的少ない。

 

 

 さらに、手足4点・重心外側=Cモードになると身体はさらに傾けることができ、より一層、手の運動域が広がる(図のb、c)。しかし、1本足になったり、手に体重を預けることで、安定感はなくなる。

 疲労感は、手足の体重の乗せ方によるのだが、体重を預けたいわば「寄りかかり」の体勢をつくれるので、意外に疲れない。省力化の実現が特徴である(詳しくは3章3のティルティングを見てほしい)

  なお、ここで付け加えておくと、Bモードが、その独特の重心を両足の外に投げ出す動きから、オーバーハングを克服する、有効な手段となることだ。なぜBモードがオーバーハングに有効なのか、これは別項を立てて、改めて解説する(5章3節)。

 また念のため、指摘しておくと、ボルダリングでよく使う、「手に足」は、身体を横に投げ出してはいるが、手で支えていて、手と足の2点の間に重心がある。したがってBモードである。特殊に見えるが、攀の他の方法(重心が内側)と、基本は変わらない。またBモードCモードの境は、判然としない。片足で立っているというのもある。使い方は微妙だ。

 

 要するに登るためには、支点と重心の選びで、以上のA、B、Cの3つのモードしかないので、これを有効に選び、壁の傾斜やホールドの位置など必要に応じて、いかにモードをすばやく、ロスなく入れ替えることが問われる

 また、人間の身体の機能には限界がある。そのひとつの例として、身体を支える手は足のように強くない。

 そこで、各モードの特徴を生かしながら、一方で効果的な姿勢、あるいは動きのタイミングによって、弱い支点である手を、如何にカバーしながら使うか? それがクライミングのフォームづくりということになる。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに「フォーム」の意味があり、「ムーブ」との決定的な違いもある。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(コラム)まっくろくろすけ

 上のイラストのような虫(蜘蛛なのだろう)を見たことないだろうか?トトロのまっくろくろすけのような虫だ。この虫、長い手足をいろいろ入れ替え、どんな壁も登っていく。とうぜん、使っている手足がちがえば、本体が感じる重力の方向は違うはずだ。オーバーハングなど、ぶら下がって、ものともせずに超えていく。

 ぶら下がっている足を変えていくとき、重力の転換が起きているはずだが、こいつは実にスムーズに登っていく。私の言う重力のパラダイム転換が理解できない方は、この虫で考えればいい。

 この虫は6本(?)の足をひっかえとっかえ、平等に使っているが、これを人間のように、2本足だけに限定し、あとの4本を補助だけに使うとすれば、とたんにこの虫は壁を登れなくなると思う。オーバーハングなんか、とんでもない。

 この虫、むかし小川山のトイレにいたのです。いまでもいるかもしれません。あなたも今夏は、ぜひご挨拶に行って、まっくろくろすけから、クライミングの秘伝を伝授してもらってくださいね。

 

 

●歩くという動きも、ひとつのパラダイムの選択である

   ● 2足歩行の重力      ●手足4点の重力                パラダイムAモード    パラダイムB,Cモード            Bモード      Cモード

 図①   図②

 

 (2足歩行のパラダイムでは、)歩行という運動は体重を支える支点となる足をめぐって、重力の解放と受容を連続することで実現されていることを見た。この歩行の方法も、クライミングで使われる。妙な言い方だが、クライミングの1種である。

 そして、さらに進んだクライミングでは、手足の4支点ということになり、身体の動きをみると、

 クライミングの身体の移動も結局、この2つの原理の延長にあると私は考えている。

 ひとつは、体重を支える支点の拡大であり、2足から、手足4支点である。もうひとつは、重力の解放、受容の方法である。2足歩行で見るように、自分にかかった重力、つまり重心を、一度は解放するが、ふたたび支点の間で受けとめる(この場合は両足=図①)。足と足でなく、足と手の間での、解放、受容がある。

 手足4支点の場合は、手足の組み合わせで、2点ないし3点で受けとめる(この辺の原理を知りたい方はコラムで詳細に分析しているので、それを見てほしい)。このときの重力の受容はじつは2つのパターンがあるのだが、まず誰もが考える複数の支点の内側での受けとめがある。

 図②にこれを示したが、しかしこの方法は本質的に2足歩行の方法(図①)と変わらない。くどい説明になるが、同じように複数の支点のうちに重心を置いていて、ただ足の代わりに手を使っているだけである。

 ここまでは、支点となる手足という因数(側面)で見てきたが、

もうひとつ因数がある。それは、重力受容の位置、つまり重心の位置である。図①、②では、重心を支点の間に置いた。誰もふつうは重心の置きかたはそれしかないと思うし、またそれが古い岩登りの盲点であったが、重心を支点の間に置かない方法もある。少し先走るが、フリークライミングはこれを発見したのである。

 ともあれ、話を急がず、以上のことを表で示してみた。