1-1.クライミングが不思議だと思ったこと、ないですか?

 ●いたるところで出くわすクライミングの不思議

 

    クライミングというスポーツが、不思議だなあ、と思ったことないですか?たとえば、こんなこと。

 超ビギナーの人の例では、自分が登ろうとすると、すぐに手がパンパンにはれあがるのに、経験者はまったく平気で登っている。自分は腕力には自信があるのだが、なぜこうなるか、意味が分からない。手が張るという、この現象は人によってはそこそこ長く続く。クライミングというのは、この手の張りとの戦いと思っている。

 

 身近にボルダージムがあり、クライミングはボルダリングから始め、相当のところまで来ているのだが、最近、ルートを始めたところ、ぜんぜん歯が立たない。まだまだ、基本の習得ができていないと、ボルダーで鍛えている。しかし6級も登れない奴がルートでは俺より登る。どうもよくクライミングが分からない。

 知り合いの彼女は、学校時代は社研にいたような女性で、スポーツなんか、したことがない。ところが、彼女は結構登れる。それに反して、力があるはずの俺はからきしダメ。いったいどうなっているんだろう。

 

 ジムには小学生の女の子なんかもやってくる。しかし、おれと身長が30-40cmもちがう、その女の子がすごい。どのようにしても俺には届かないホールドを、何の苦もなく取ってしまう。クライミングって、こうなると身長のあるなしではなくなってしまう。

 このまえ、仲間と外岩に行った。たいして登れなかったけれど、驚いたのは、インドアではぴかいちの彼が、まったく手も足も出なかったことだ。外岩なので、彼も俺も結構事前に練習したはずだったが、愕然としてしまった。

 

 クライミングで、先輩は「足を切れ」ってよく言う。はじめはそんなことをしたら、安定をなくして落ちてしまうと思っていた。ところが、一度やってみたら、それまで取れなかったホールドがとれるようになった。なぜこんなことが起きるのか、わからない。

 身体をふってホールドをとるとき、その先輩は「ホールドは見ちゃダメ」なんて到底非常識としか思えないことを言う。その先輩は、外岩に行ったとき、「足はなるべく高く上げない」なんて言う。インドアで言っていたこととまるっきり正反対なんだ。

 ●クライミングの現実を説明できていない現状

 

 クライミングをやっていると、さまざまな不思議に出くわす。わたしはこうした不思議の意味は、これまで大体、理解してきたつもりだが、それでも、小さな不思議はいまでもある。不思議の意味が分かれば、どのように登れば良いかが分かる。

 よしや登れないまでも、自分の足りないところ、トレーニングの方向が見えてくる。 しかし、学習者もいろいろで、うまく上達する人はいいのだが、迷い道に入り込んだり、どうしてもうまくいかない人が出てくる。

 

 ただ、こうした上達、停滞の原因は、必ずしも身体能力の差、たとえば筋力、腕力の不足、あるいは単純なクライミング技術の不足などで、決め付けられないのではないか、ということをずっと以前から考えてきた。

 ひとつは、スクールなどクライミングの指導というのは、登り方、身体の使い方など、経験に基づいたノウハウ以上のものではない。

 

 経験に基づいた方法も必要だが、学習者は登りの方法を随時に示されても、全員がそれを自分の身体の動きの回路に正しく位置づけられるわけではない。

 さらに、後で示すが、身体の動きには、ある種のダイナミックな動きの転換がある。それを意識せず、繰り返しいくら練習をつんでも結果はなかなかでない。そして、はじめに見たようなビギナーの素朴な疑問には答えられない。

 ようするに、クライミングにおける身体の動きがどうなっているのか、基本的な解析を行なわないと、クライミングがどういうものか見えてこない。それでは問題は最終的に解決しない。