Cモードとは何か?Cモードは運動域の大きな拡大につながる。

運動域を考える場合、ポイントとなるのは、横方向への運動域である。クライミングは壁を登る運動だが、実際にはまっすぐ垂直に登らない。

 たとえば、階段を登る場合、ハシゴを登る場合、よく見ると一歩一歩、身体は左右に振れている。なぜかというと、その方が登りやすいからだ。2足歩行の場合もそうで、右足、左足、交互に足を出すとき、身体は交互に傾き、ゆれている。

 クライミングの場合は、はっきり、身体は揺れていて、極端になると、ジグザグになる。というより、難しくなると、ジグザグにならざるを得ない。重力を、右、左に振り分けていく方が楽なのだ。

 

 このようなクライミングの登りの特徴を押さえておいて、A,B,Cモードを見てみよう。

 まず、Aモードでは身体の動きはあくまで立っている両足のあいだである。2足歩行のときのように、身体の位置は、せいぜい支持している足までである。移動(一歩歩くこと)は、足を出して、そこに身体(腰)をのせていく。

 Bモードになると、手も支持点になるので、運動域がやや広がる。ただし、この場合も伸ばした手の範囲であって、手が伸びた位置に足を置き、そこに身体を移動する。

 

 

<レイバック>レイバックというのは、本質的にどういう登りなのだろうか? レイバックは、一見したところ、そう見えないだろうが、基本的に正対の登りである。なぜか?

 レイバックは、クライマーの側面から見ると、一見、ティルティングの姿勢のように見える。また、このクライマーは壁に向かって見ると、半身に構えているように見える。しかし、体側姿勢の説明を思いだしてほしい。たしかに現実の壁はAであるが、このクライマーは、Bという虚構の壁を登っているのである。

 そして、クライマーの後ろから、登っている姿を見ると、このBという壁に向かって、クライマーは正対しているのである。

 確かに、スタンスは乗り込むのでなく足で押し、一方、手で反対の方向に身体を引くことで、2つの逆方向の力で身体を保持している。だから、一見特殊な登りに見える。しかし、これは、ハシゴを垂直に立て、それを登る場合と、身体がとる姿勢は同じだ(イ図)。手の持ち方が少し違ったり、ハシゴの横棒は足で押すのでなく、乗り込むようになっているので、登り方が違うように見えるだけだ。レイバックと言うのは正対の1変形であるのだ。

 

そして、ビギナーが壁を登る場合の方法は、正対のぼりとレイバックのぼりの中間の形態、ないしはミックスである。

 

 

 

 

 

 

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 ABCモードについて述べたが、では、クライミングのビギナーはどのような方法で壁を登っているのか?そして、それをどのように変えていけばいいのか?

 彼らの登りの特徴は2つある。すなわち、①身体を必ずしも強力でない筋で保持し、加えて、使う筋の入れ替えができていないこと②その登りの方法が、運動域を拡大する動きでないーーこの2つである。このために、少しの時間で疲れ果て、また、めざすホールドが取れないのである。

 まず①の「使う筋の問題」を見てみよう。そのために、ビギナーがどのように壁を登っているか、を見ると、一般に彼らの方法は、「正対+擬似的レイバック」である。

 正対というのは壁に向かって、身体を正面に向けるスタイルである。レイバックは00-00説明することになるが、一見、横向きの動きに見えるものの、実際には正対であり、足の踏ん張りに保持する手が逆方向に引くことが特徴である。かれらは、そのようにして、身体を手を引き付けて登っている。

 なぜこれが正対かと言うと、実際の壁に対しては確かに身体は横を向くが、ホールドとの関係で言うと、(仮想の壁に対して)正対の位置に身体があるからである(図1)。

 

 

 もっともビギナーの登りは、レイバックそのものではない。ノーマルな正対との中間値のようなスタイルになっているし、そのスタイルもときに正対、ときにレイバック気味と動きにブレを起こしている。なお、モードで言うと、基本的にAモード+Bモード(一部の動きを除く)である。

 

 それはともかく、こうしたビギナーの動き方、登り方がなぜ良くないのだろうか? 正対は良くないとよく言われるが、なぜ良くないか、しっかりとした説明が実際にはほとんどなされていない。

 

 それは、身体にどのように力がかかるか、を見れば分かりやすい。A,Bモードあるいは正対における力のかかり方は、図2で示した。基本的に、力はわれわれの身体の内側、ないし前側(胸郭部分)にかかってくる。

 それに対してCモードでは、力は肩の外側を通って、広背筋にかかる。

 つまり胸郭筋と広背筋のどちらが強いか?ということになる。当然、広背筋が強いわけで、ビギナーは後背筋を使わずに登っているということになる。後背筋を有効に使えるようになるのは、10bぐらいからであろう。

 一方、胸郭の筋肉は、うまい下手おしなべて、正対の姿勢をとるわけだから、どのようなクライマーも使う。つまり筋肉の使い方は次のように仕分けできる。

 

 (10b以上の)クライマー   胸郭の筋肉 + 後背筋

 

  ビギナー            胸郭の筋肉

 

 このことは、何を意味するかと言うと、経験者のクライマーは身体の前と後ろ、双方の筋肉を使い、一方を使っている間は他方を休ませる。ビギナーは、胸郭の筋肉をずっと使い続けることになる。どちらが有利かは、言うまでもないだろう。したがって、後背筋を積極的に使うCモードは、ビギナーのレベルアップには喫緊の課題なのである。

 

 さてもうひとつの問題②運動域の拡大ーーを見てみよう。今度は図2を見てほしい。身体の姿勢と言うのはいろいろなので、ここではイ)という設定で考えてみた。ロ)はA,Bモードすなわち、重心が支持する手足の内側に置く場合、ハ)は重心を外側に置く場合で、これはCモードである。

 図を見れば分かると思うが、ハ)のCモードの方が、手は広範囲に伸びている。つまり、遠いホールドがとれる。ちなみに、クライミングはとくにルートは、壁をジグザグに登っていく。頭上を目指して、垂直に登るものではない。それでは、いろいろな動きが起こせないからだ。ともかく、そのように壁を登るとき、斜め上から、横方向の、より広範囲に手を伸ばすことができれば、有利であることはすぐに分かるだろう。

 このように、ビギナーはいますぐ上達するためにも、Cモードの登りを身に付けてほしい。ただし、Cモードと言っても、フォームやムーブのCモードから始めるのでなく、アイドル時、ルーティンな動きや身のこなしの中に、重心をはずすCモードをこころがけてほしい。

 そうすれば、以前よりも、格段に疲れず、キレのよい登りを実現することができるだろう。