クライミングの各ジャンルの身体の動きは、何を前提にし、何を目指しているか?

 まずアルパインの場合は、安全を前提にした身体の動きがコンセプトである。

 しかしながら、<(Ⅰ)安定性・転倒回避 >は、<(Ⅱ)持久性・省力性> や <(Ⅲ)運動域の拡大> <(Ⅳ)個別の動きの追及(実現)>に優先しているわけだが、優先度をかなり余裕をもってとっている。ようするに、登攀中どのようなアクシデントが起きても、転倒せず、安定、安全に問題がないよう、また余裕を持って帰還できる身体の動きである。すなわち、次のような計算式で表されるだろう。

       〔(Ⅰ) +(Ⅱ)〕ー(Ⅲ)+(Ⅳ)=  十分な余裕

 

 これに対して、フリークライミングは、アルパインの優先コンセプト<(Ⅰ)安定性・転倒回避 > の優先度を、できるだけ小さくして、つまり少しぐらい犠牲にしてでも、<(Ⅱ)持久性・省力性>や<(Ⅲ)運動域の拡大>、<個別の動きの追及>へのウエイトを高めようという身体の動きをめざしている。

 ようするに次のようなことになる。

      (Ⅰ) ー(Ⅱ)、(Ⅲ)、(Ⅳ)=  限りなくゼロに近づける

 

 つまり、壁から落ちるか落ちないかのぎりぎりまで、<持久性・省力性>や<運動域の拡大>あるいは<個別の動きの追及>を追及し、それによって登りの可能性をできるだけ広げようと考えている。だから、落ちるか落ちないかの瀬戸際までがんばって、登りを実現する。

 

  さて、このような場合、どういう方法で所期の目的を実現するか? 2つの考え方があるだろう。

 1) まず、(Ⅰ) の要件をできる限り削減して、小さくする方法だ。無用な動きをそぎ落としてしまう。

 この方法はたとえば3点支持から2点支持への移行などが、それに当たるだろう。ティルティングやフラッギングで、安定を得ながら省力化ができる。

 

 2)もうひとつは、(Ⅱ)、(Ⅲ)、(Ⅳ)の動きを強化することで、(Ⅰ)をスキップ(飛ばす)したり、(Ⅰ)への要求を軽減したりする。ようするに、身体の動きで、安全性への努力を減殺したり、省略したりする。クロスムーブ、ヒールフック、ドロップニーなどがそれだ。技術を加えることで、保持の負担を軽減する。

 具体例ではニーロックは、<(Ⅳ)個別の動きの追及> によって、身体の(手による)保持を軽減しようというものである。クロスムーブは(Ⅲ)、(Ⅳ)によって、たとえば逆向きのホールドの負担を回避して、

 

 

 

ではボルダリングはどのようなことになるか?

 ボルダリングの場合、重視されるコンセプトは<(Ⅲ)運動域の拡大>および<(Ⅳ)個別の運動の実現>であり、<(Ⅱ)持久性・省力性>はほとんど考えられていない。ただし、落ちてしまえばボルダリングであっても、ルールから排除される。したがって、最低限であるが<(Ⅰ)安定性・転倒回避 >は確保する。

 

  (Ⅰ) ー(Ⅲ)、(Ⅳ)=  限りなくゼロに近づける

  

 ないし、

  (Ⅲ)、(Ⅳ)ー (Ⅰ)=  極大化する

 

 ということになる。

 

 これは(Ⅰ)の要求を(Ⅲ)、(Ⅳ)によってほとんどゼロにしてしまう方法だ。