3-1 つづき

ひとつは姿勢コントロールをしないこと、つまり手による姿勢補正が必要な状態を最初からつくらないことである。この件については、ティルティングという静的フォームが有効であるが、これは次節で紹介、詳説する。

 二つめは冒頭で見た、張力を一方向にして、手を伸ばし身体全体で体重をかける姿勢を実現することである。不安定で、どちらに張力が行くか、分からない状態での保持は方法のコントロールで、必ず前腕に緊張が来る。身体全体で一方向に体重を掛ければ、緊張は背中(広背筋)、肩、上腕に分散できる。
 だから、ふつう言っている「手を伸ばす」というのは、ここで示している姿勢とは、ちょっと違うことが分かると思う。鉄棒に体重をかけてぶら下がるように、手や肩をふくめ身体全体で、ホールドにぶらさがる、あるいは鉄棒を手で引く状態を作るということである。

 実際に鉄棒にぶら下がってみるといい。鉄棒に30秒から1分、ぶら下がった後、クライミングのときのような腕の張りが起きているかどうか、確かめてほしい。
 鉄棒にぶら下がると、背中から肩、さらに腕、手にかけて筋肉が伸ばされるだけで、筋緊張は起きない。筋肉は収縮し、緊張することでパンプが起きるが、弛緩、脱力、筋肉の固めでは、疲労は出ても、いわゆるパンプは起きない。むしろストレッチ効果となる。
 したがって、パンプを避けたければ、クライミングのあらゆる場面で鉄棒のぶら下がり状態を作り出せばいいということになる。

 ビギナーにとっては、身体が登りの姿勢にあるとき、この荷重方法をとるのは難しいかもしれない。しかし、少なくとも、クライミングで静止中やレストのとき、クリップ体勢に入るとき、さらにルーティンな移動のときなど、この姿勢を作り出すようにしよう。

 

 具体的にこの体勢を作る場合、すぐ思いつくのは、下図のようにホールドの真下にぶら下がる(イ図)方法だ。

 

 

しかし、実際にはこの体勢はスタンスの位置が高すぎたり、左右で位置が違ったりして、真下に引くには無理がある場合が多い。そこで、真下から身体の位置を変え、身体をどちらかに倒して斜め下方に引くようにする(ロ図)。
 すこし先走った説明になるが、この姿勢が次の節で説明するティルティングで、身体を倒すことで手を伸ばすわけだ。
 なお、イ図のようにホールドを真下に引くというのは、分かりやすいが、これは厳密に言うと、実際にはやや斜めになる。
 身体の構造上、身体をどちらかに傾ける方が保持しやすい。

 このほかホールドが近い場所にあり、ひじが曲がってしまう場合などは、身体をひねって手を巻き込む方法(ハ図)がある。
 いずれの場合も、身体の複数の筋肉を使い、一定方向に伸ばし、弛緩させて体重をかける。そうすればパンプは確実に防止できる。

 ●

 しかし、鉄棒のようにぶら下がっていると、体重を預けるわけだから、保持する手や指に負担がかかるのでは?という疑問もでるだろう。
  しかし、それはホールドの大きさと相談し、保持している手およびホールドをチェンジする。もちろん同時に体勢も変える。
  いずれにせよ、同じ姿勢を続けず、同じ手を使わず、同じ筋肉を同じ方向で使わず、緊張を継続させないことが、クライミングの秘訣である。
 この鉄棒理論のフォームは、後で見る「ティルティング」「フラッギング」のほか、運動のフォームである「カウンターバランス」でも使われる。

 さらに何事も例外があり、腕を曲げざるをえない場合、曲げた方がいい場合もある。
  その場合は曲げてもいいので、曲げた腕を体幹で引きながら、方向性を変えず、その状態のままを維持し、腕を動かさない(ロックする)。
 引き付けだけは回避するのがポイントだ。


 先にも触れているが、クライミングで手を伸ばすという指導は、理屈としても無茶である。手だけ伸ばしたら、身体が後ろにのけぞってしまう。
 手を伸ばさせたいなら、せめて腰を落とす(あるいは腰を入れる)ようにでも指導すべきだ。腰を落とせば、自然に手が伸びる。
 さらに、手を伸ばすことに必要以上にこだわることはない。曲げてもいいが、曲げたままで、引き付けたり、動かしたりしない、そのままロックしておけばいい。それなら手は使ったことにならない。

 さらに鉄棒理論からはずれることになるが、クライミングでは腕にしろ何にしろ、筋肉が疲労しやすい状態、筋収縮や筋緊張を如何に回避するか、という点を留意しなくてはならない。
 軽度の負荷であっても、同じ姿勢をとるなどして、同じ筋肉の部位の緊張、収縮を続けると、最も早く疲労する。

 したがって、この問題を解決するには、その部位が疲労する前に、身体を動かし、体勢を入れ替え、緊張する筋肉をチェンジしていくことが求められる。
  鉄棒理論でも同じで、レストするときは、つねに鉄棒状態を作り出しながら、あとで説明することになるが、たとえばカウンター姿勢(詳細は4章)を左右に入れ替えたり、ぶら下がったり、フラッギング(同)に入ったりすることだ。
 ときに次のホールドを取りにいく際は、反対側の腕を曲げたり、引き付けをして、身体の引き上げが必要なこともあろう。しかし、 動きを起こすときを狙って引き付けをおこない、それが終われば、体勢を戻し、いちはやく疲労しにくい鉄棒姿勢に入る。
 いずれにせよ、緊張する筋肉を入れ替えながら動くというのは、ほとんどひとつの戦略なのである。

●   ホールドの握り込みもパンプの一因

  手の問題でビギナーにとって、もうひとつ大事なのが、緊張や恐怖から起きる、手によるホールドの「握りこみ」である。クライミングにおいて、握りこみは99%御法度である。

 前腕がパンプする原因は、「手による姿勢維持=制御」なのだが、理屈から言うと、この「握りこみ」も結局は手による制御であり、同種の問題とも言える。
 壁に取り付いて2-3回目のビギナーで、極端な「握りこみ」が起きる。壁に張り付いているだけで腕がパンパンにはれ上がるのである。
 これは「危ない」「落ちる!」というメンタルなことが原因で、手のひら、前腕でそれを防ごうとするためだ。
 だから身体の動きとしては、結局、最初に見た手による姿勢の維持、補正と似ている。手の指、手の平、さらに前腕だけで、身体の倒れや傾きを無理に補正しようとしているのだ。
 それは出来るはずもない。したがって、手のひらから、手首、前腕、上腕、肩、背中へと身体全体を連携させてホールドを持つようにすることだ。

しかし、実際にはこの体勢はスタンスの位置が高すぎたり、左右で位置が違ったりして、真下に引くには無理がある場合が多い。そこで、真下から身体の位置を変え、身体をどちらかに倒して斜め下方に引くようにする(ロ図)。
 すこし先走った説明になるが、この姿勢が次の節で説明するティルティングで、身体を倒すことで手を伸ばすわけだ。
 なお、イ図のようにホールドを真下に引くというのは、分かりやすいが、これは厳密に言うと、実際にはやや斜めになる。
 身体の構造上、身体をどちらかに傾ける方が保持しやすい。

 このほかホールドが近い場所にあり、ひじが曲がってしまう場合などは、身体をひねって手を巻き込む方法(ハ図)がある。
 いずれの場合も、身体の複数の筋肉を使い、一定方向に伸ばし、弛緩させて体重をかける。そうすればパンプは確実に防止できる。

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 しかし、鉄棒のようにぶら下がっていると、体重を預けるわけだから、保持する手や指に負担がかかるのでは?という疑問もでるだろう。
  しかし、それはホールドの大きさと相談し、保持している手およびホールドをチェンジする。もちろん同時に体勢も変える。
  いずれにせよ、同じ姿勢を続けず、同じ手を使わず、同じ筋肉を同じ方向で使わず、緊張を継続させないことが、クライミングの秘訣である。
 この鉄棒理論のフォームは、後で見る「ティルティング」「フラッギング」のほか、運動のフォームである「カウンターバランス」でも使われる。

 さらに何事も例外があり、腕を曲げざるをえない場合、曲げた方がいい場合もある。
  その場合は曲げてもいいので、曲げた腕を体幹で引きながら、方向性を変えず、その状態のままを維持し、腕を動かさない(ロックする)。
 引き付けだけは回避するのがポイントだ。


 先にも触れているが、クライミングで手を伸ばすという指導は、理屈としても無茶である。手だけ伸ばしたら、身体が後ろにのけぞってしまう。
 手を伸ばさせたいなら、せめて腰を落とす(あるいは腰を入れる)ようにでも指導すべきだ。腰を落とせば、自然に手が伸びる。
 さらに、手を伸ばすことに必要以上にこだわることはない。曲げてもいいが、曲げたままで、引き付けたり、動かしたりしない、そのままロックしておけばいい。それなら手は使ったことにならない。

 さらに鉄棒理論からはずれることになるが、クライミングでは腕にしろ何にしろ、筋肉が疲労しやすい状態、筋収縮や筋緊張を如何に回避するか、という点を留意しなくてはならない。
 軽度の負荷であっても、同じ姿勢をとるなどして、同じ筋肉の部位の緊張、収縮を続けると、最も早く疲労する。

 したがって、この問題を解決するには、その部位が疲労する前に、身体を動かし、体勢を入れ替え、緊張する筋肉をチェンジしていくことが求められる。
  鉄棒理論でも同じで、レストするときは、つねに鉄棒状態を作り出しながら、あとで説明することになるが、たとえばカウンター姿勢(詳細は4章)を左右に入れ替えたり、ぶら下がったり、フラッギング(同)に入ったりすることだ。
 ときに次のホールドを取りにいく際は、反対側の腕を曲げたり、引き付けをして、身体の引き上げが必要なこともあろう。しかし、 動きを起こすときを狙って引き付けをおこない、それが終われば、体勢を戻し、いちはやく疲労しにくい鉄棒姿勢に入る。
 いずれにせよ、緊張する筋肉を入れ替えながら動くというのは、ほとんどひとつの戦略なのである。

●   ホールドの握り込みもパンプの一因

  手の問題でビギナーにとって、もうひとつ大事なのが、緊張や恐怖から起きる、手によるホールドの「握りこみ」である。クライミングにおいて、握りこみは99%御法度である。

 前腕がパンプする原因は、「手による姿勢維持=制御」なのだが、理屈から言うと、この「握りこみ」も結局は手による制御であり、同種の問題とも言える。
 壁に取り付いて2-3回目のビギナーで、極端な「握りこみ」が起きる。壁に張り付いているだけで腕がパンパンにはれ上がるのである。
 これは「危ない」「落ちる!」というメンタルなことが原因で、手のひら、前腕でそれを防ごうとするためだ。
 だから身体の動きとしては、結局、最初に見た手による姿勢の維持、補正と似ている。手の指、手の平、さらに前腕だけで、身体の倒れや傾きを無理に補正しようとしているのだ。
 それは出来るはずもない。したがって、手のひらから、手首、前腕、上腕、肩、背中へと身体全体を連携させてホールドを持つようにすることだ。

まず、指でコントロールするのではないので、ホールドからずれない程度の指の力にする。これで普通の「つかみ」になる。さらに、ホールドに添えた手のどの方向に、張力がかかっているかを知る。落ち着いて、手や指にかかる張力や圧をに耳をすませる。つまり手のセンサーを働かせる。
 最後に、その圧の方向に手の引きを集中する。そうするとホールドに触れる手や指の部分は最小限になる。これが「引っかけ」であり、 手にかかる張力や圧を、上腕から、さらに背中、そして身体全体で受け止める。決して手だけで引くのではない。
   余計な握りやつかみは、本来必要なく、接点を無用に広くしたり、力を入れることは、バランスや張力を捉えるセンサーにとって、雑音にしかならないのだ。
   この節では、ビギナーレベルで必要な、ごく一般的な手の使い方だけを紹介しておいた。さらに詳しくは6章00節の手のひら理論を読んで欲しい。