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クライミングのフォームがクライミングにとっての要件(必要条件)を満たし、クライミングを成立させている身体の基本的な動かし方であることは、すでに述べた。
では、よく使われるムーブとはなにか?ムーブというのは、身体の動かし方であることには間違いがないが、クライミングにとっての要件(必要条件)を必ずしも満たしていないものである。
マルクス主義みたいで不快だが、フォームとムーブをそれぞれ下部構造と上部構造というふうに考えると理解しやすい。ムーブの実現は、一定のフォームの前提の上に築かれ、フォームなしでは成立しない。
分かりやすくいうと、ピッチングフォームがあってカーブやフォークの球種がある。ゴルフスィングのフォームの基本があって、スライスやフックの打ち方がある。そういうことだ。いま、これをごちゃごちゃにしているから、失敗するクライマーが出るのだ。
以下にクライミングの教本でよく紹介されている「ムーブ」を列記してみよう。
・ヒールフック ・トゥーフック ・デッドポイント ・ダイノ
・オポジション ・レイバック ・プッシュ ・マントリング
・ステミング ・ジャミング ・クロスムーブ ・チクタク
・アンダーくリング ・手に足 ・スメアリング
まだまだあると思う。それぞれの身体の動きを考えてほしい。これらのムーブはどれも、その動きだけではクライミングが成立しない。クライミングの基本要件が部分的に欠けている。しかし、一定の課題を解決するには有効だ。いやそれなしでは解決できないかもしれない。
ただ、これらを本来の意味でのクライミングの基本動作と捉え、こうしたムーブだけを念頭に、クライミングを行うと意外な陥穽が待ち受けている。
それはーー
*終了点にに行くつく前に力尽きる
*いつまでたっても、うまくならない
*壁の中でちゃんと立てない、いつまでもおれない
*特殊な動きは得意だが、壁の中で有効な動きができない
*危険を感じると途端に力が入ってテンションがかかる
*ボルダリングはそこそこできるが、ルートが登れない
*アルパインからフリーの脱皮ができない。
これらはみんな同じ問題だ。フォームを身に着けていないから、(Ⅰ)安定性・転倒回避 (Ⅱ)持久性・省力性 (Ⅲ)運動域の拡大 ーーの基本要件をクリアできていない、そのための基本の身のこなしができないからである。
フォームとムーブは
結論じみた説明になるが、手で行うのがいわゆるムーブ、足で登る行為をフォームと言ってもいい。もちろんムーブもフォームも、身体のさばき方と密接に関係しており、身体のさばきと一体となって、双方、生きたものとなる。
ただし、傾向としては登ることをあまり考えなくてよいボルダーは、足つまり下半身よりも手の方、つまり上半身の動きに焦点を当てる。ムーブが問題にされるのはそのためである。一方、登ることを主目的とするクライミングは、足つまり下半身でどう登っていくかであり、つまりフォームを中心に考えることになる。
なお例外的に足を使わず、手で這い上がって登るという場合もある。しかし手で登るのは、どうしてもそれ以外に方法がない場合など、例外的で、最後の手段である。手で登ってもいいが、実際のところ続かない。